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VRChatで個展を開く(その4・作品&技術解説)

ここでは展示品の意図や仕組みについて解説しています。
ほぼすべての作品についてネタバレを含みます。このワールドはPublic化を予定していますので、作品を100%楽しみたい方は実際に実際に会場で見るまでこの記事を読まないことをオススメします。

Element 0: Mismatching (Material)

全体的に、特殊なマテリアル(=シェーダー)を設定することで作品としての機能を実現しています。

マテリアルペン,5本入

VRChatのワールドにある普通のペンは黒・白・赤などそれ自身が意味を持たない単色であることがほとんどですが、この展示では以下のようなメタ的な意味を持つ色や模様を設定することで普通とはちょっと違うペンを実現しています。

他の一部作品にもついているリセットボタンについてはVRC_Scene Reset Positionを使用しました。

正しいはんだごては?

こういうミームを受けて作ったものです1
そばに置いてあるサーモグラフィーは、2つのカメラで普通の視界とPlayer・PlayerLocal・Mirror Reflectionレイヤーのみを対象とした視界を一度別々のRender Textureに描画し、これらを適当に加算することで表現しています。

優美展開

「折り紙の展開図」と「3DモデルのUV展開」が似ていることを踏まえて作った作品です。
メッシュの中心座標から適当な[0,1]の値を作り、各頂点座標を「オリジナルの座標」と「UV値」で補間することで手に持つと展開するようになっています。
三種類のモデル(鶴・風船・兜)はBlenderでQuadをKnifeで切ってから実際に「折る」ことで作りました。
ひとつ問題だったのは、折り紙では一つの部位に何枚もの紙が重なるため、両面を描画するようにすると容易にZ-fightする点です。
幸い鶴と風船は完成時は裏面が全く見えないので、上記の補間値が0.9以上の時に裏面を非表示とすることで対応しました(兜は裏面が見えるため頑張って頂点を調整しました)。

作品をつくる作品

美術館に置かれたメガネがいつのまにか作品になっていたという逸話から着想した作品です。
といってもVRChatでは普通の日用品が床に転がってるのは至極よくあることなので、「ボタンを押すと作品が変化する」「取っ手を持つと持ち運びができる」というインタラクティブな要素を加えました1

スタック・オーバー・苦労

VRChatで普遍的に行われている行為である「VRC_Pickupがついたオブジェクトを積み上げる遊び」に+αの意味をもたせた作品です2
“客寄せパンダ”とか”デパートやモールにあるキッズ用スペース”的な役割として作った作品です。左は「屋根を積むと自動で末広がりになる+重なりの数を自動計算するN重塔」、右は「重ねると自動で名前を付けてくれるハンバーガー」です。


左(N重塔)については各メッシュの原点座標から適当に計算しています。
右(ハンバーガー)についてはバンズの上部にカメラを付けておき、各パーツに専用レイヤーで加算ブレンドするQuadをつけておくことで重なったパーツが何であるかを計算しています。
(各QuadをRGBの各値を0b1111に分解したうちの1 bitのみに対応することで12個のパーツを個別に検出可能)
なんのパーツもない場合は「バンズ」にしたり肉が含まれてないと「〜サンド」にしたりと細かい調整もしています。
また、例のごとくConfigurable Jointでパーツがどこかに吹き飛んでいかないようにしています。

Step-by-Step by Step

足場のマークに立つと「その人だけ」または「その人以外だけ」(左奥だけ)になにかが見える作品です。
前者については「カメラ座標が一定範囲にあるとメッシュが表示されるシェーダー」で実現し、後者については「床下に固定したカメラ(Render Textuere出力)にPlayerかPlayerLocalの何かが写っていて、かつプレイヤーのカメラが一定範囲にないと表示されるシェーダー」で実現しています。
それぞれ見えるものは以下の通りです。

二つ目の走馬燈

光り物その一。
前処理として、私が過去に撮影した写真に以下の処理を行って色情報を抽出しテクスチャ化します。

  1. RGBそれぞれのヒストグラムを計算
  2. 写真全体の平均色を計算
  3. ヒストグラムを適当に正規化しテクスチャの1行(256ピクセル)として格納
  4. 平均色は各行の一番右のピクセルに格納1

次に「平面を画像の枚数分横に並べたメッシュ」を用意3し、シェーダーで色情報を描画しています。
この作品ではヒストグラムの「高さ」をfragment shaderで色として表現していますが、これはvertex shader側でポリゴンとして表現するためにはメッシュ全体のポリゴン数が多くなりすぎると判断したためです。

VTuber Particle

VTuberチャンネルの規模をGPUパーティクルとして表現したものです。
チャンネル登録者数はYouTube APIより取得し、サムネイル画像の色とチャンネル数を適当に正規化してRGBA形式でテクスチャに保持しています。
当初はチャンネル同士のおすすめチャンネルの関係も可視化しようと思いエッジ情報のテクスチャ作成までは行っていましたが、おすすめチャンネル機能はTwitter等と違い利用度合いがまちまち(知り合いだからといって必ず登録するものではない)ことでグラフが疎になりそうだったのでやめました。
ちなみに開催時の★の5チャンネルはです4

距離のリアル

今までの来場者との物理的距離を可視化する作品です。
原理としては、

  1. CGIを叩いた際のIPアドレスをMaxMind社の提供するDBであるGeoLite2を使用して経緯度に変換
  2. 経緯度をWebサーバ上の適当なDBに保存
  3. クライアントの経緯度とサーバに保存してある経緯度から相対的な距離と角度を算出
  4. 距離と角度をpng画像にプロットしてVRC_Panorama経由で表示

して実現しています。
第二回開催では、IPアドレスがDBに登録されていない場合1には日本経緯度原点を現在位置として使用するようにしています。

現実世界終末時計

名前の通り世界終末時計をもじった作品で、世界人口とVRChat人口の比を24時間に変換して表示する作品です5
世界人口に関しては調べた限り「現在の世界人口を返すAPI」を見つけることができなかったので、国連から報告されている予想人口推移をもとに計算しています。
VRChatのプレイ人数に関してはこのAPIからとっています。
表示は上記の「距離のリアル」や最初の部屋の時計と同じVRC_Panorama画像の一部として書き込んでいます。1

玉虫色の視点

一見すると「角度によって違った図形が見える作品」ですが、実はプレイヤーのIPアドレスによって全く異なった図形が見える作品です。
そのため、一人で見たり無言で鑑賞しているだけでは作品の「本質」が全くわからない作品となっています(Twitterを見る限り、後日写真を共有したときに初めて気づいた方もいたようで、ニヤニヤが止まりませんでした)。
作品名は「異なる視点(見る角度)によって違ったものが見える」と「異なる視点(プレイヤー)によって違ったものが見える」のダブルミーニングになっています。

VRChatにおいて、人によって見えるオブジェクトが異なる現象はごくありふれたもので、VRChatユーザも(ローカルミラー等のよく知られた形態の場合は)それを普通に事だと認識しています。
(これに関してはカンナさんxclocheさんの記事でも触れられています)
そこで、この作品ではこの現象を作品として表現するとともに、気づいたときのインパクトを大きくするためにわざと単体では面白みにかける「見る方向によって見え方が違う物体」1でブラフを張る形で表現しました。

実装としては、外部のWebサーバのCGIを使って「IPアドレスから適当にハッシュ値をとって色に変換した画像」をVRC_Panoramaで表示し、カメラでVRC_PanoramaからRender Textureに変換してからシェーダで採取して表示するメッシュを決定しています。
壁に写っているスポットライトも実はUnityのLightではなく単なるテクスチャで、IPによってUV座標を変えているだけです。

ちなみに、VRカメラのエフェクトを使うと全てのメッシュが見えてしまうため、「シェーダーでclip(-1)をかけたBox」を置いておくことで対策しています。

これはあなたの作品です

VR環境だけで使用できるカメラのとあるエフェクトを使うことで説明文と作品本体が見えるようになる作品です。
説明文については、Illustratorとかでsvgを書き出し、Blenderでfbxに変換しています。
なお、対象としているエフェクトは法線ベクトルのノルムによって色の濃さが変わる?ようなので、説明文モデルをUnity上で垂直方向にスケールすることで読みやすくしています。

ハイパースマートスピーカー

「もしも任意の判定問題(答えがYesかNoかのいずれかである問題)を解くことのできる集積回路(IC)があったら」という仮定のもとでいろいろ作った作品です。技術的な要素は特にありません。
試作品として置かれているモデルに関しては実際に電子部品の選定と回路設計をした上でモデルを作成しているほか、机に置いてあるデータシートも電子工作したことある人から見るとあるあるなネタになっています。
会場で流されている製品紹介動画はなんか作りたかったので作りました。

VRC_WebPanel

完全にメタ的なネタです。技術的な要素は特にありません(あってほしかった)。
本来展示される予定だった「ボイド・ボイド・キューブ」というのは、「岡本勝彦氏が作成した『ボイドキューブ』(ルービックキューブの非外周部の7キューブを取り除いた作品、実際に動く)を更に改良して角の8個以外を除いたルービックキューブ」と銘打った作品の予定でした。
原理的にはWebPanelを使った普通のルービックキューブを実装するめどは立っていて、これの一部を非表示にすることでボイド・ボイド・キューブとして展示する予定だったのですが、あまりにも突然のご不幸で、まだ信じられない気持ちでございます。
心からお悔やみ申し上げます。

1%の本質

技術的にはStep-by-Step by Stepの作品とほぼ同様ですが、説明文を読もうと近づくとSteamVR起動直後の真っ白な空間が表示される作品です6
レンダーキューを可能な限り大きくしてアバターの表示も消えるようになっているので、「あなたが見ていた個展はすべて仮想である」というエモ感をぶつけることを目的としています。
TwoLeafさんの情報をお借りして以下のような表示をしています。

これに加えて、VRの場合は対応するデバイスのSteamVRステータスウィンドウも表示されます。

最後の演出

「ミュージアムショップを出たらその展示会の内容は終わりである」「ミュージアム(美術館)の構造は変化しない」という常識を逆手に取った演出です。
最初の部屋に望遠鏡が壁に向かって置いてあるのも一種の伏線を意図したものです。
ちなみに、床に出現するカスミソウには「夢心地」という花言葉があります8

第二回開催時の演出

第二回の開催時にはいくつかの追加要素を入れました。必ずしも技術的な解説ではないですが、もう時効だと思いますしこのワールドは別に謎解きワールドではないので書いちゃいます。

  1. ちなみに、この作品と現実世界終末時計だけは現実世界でも実現できます
  2. ちなみに、私がVRChatにハマったきっかけの一つはどこかのPublicのクラブで見ず知らずの川内姉貴兄貴とグラスを無言で積み重ねあったことで「現実ではしょうもない行為でもVRではエンターテイメントとして通用する」という可能性に感動したためです
  3. 今回はCollada形式のモデルをXMLファイルとして動的に作りました
  4. 上の写真は少し古いデータを使用しているのでV番連の旧サムネイル(赤色)も★になっています
  5. 「世界人口」≧「VRChat人口」が常に成り立つので24時を超えることはありえないのではないか、と言われればその通りなんですが、ここはボットとかAIとかそこら辺の概念を考慮しているということで
  6. ちなみに、これを作ろうと思ったきっかけは、はじめてVR内で見たVRoadCasterでエンディングのラストカットのエモさに感動したからです
  7. 私はOculusを持っていないので実際こういう表示になるかどうかは未検証です
  8. VRChatって「確実に続きが見られる夢」みたいじゃないですか?
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