#6.5: 世界は私たちに遍在する

みなさんは近頃どんなVRChatライフをお過ごしでしょうか? 激動のバーチャルマーケット3も開催間近となり、目新しいアバターも増え、多種多様なイベントもますます活気づいていると思います。 私は最近何をしているかというと、1%の仮想が開催された少しあとくらいからせっせとワールド制作を行っています。

内容は「ちょっと変わった謎解きワールド」です。ちょっと、というかかなり変わっているんですけど、VRChatの世界に無数に存在するワールドのどこでも体験することのできない「なにか」を提供できるようなワールドを目指して作っています。 私は作者本人なので自分で判断を下すことが難しいのですが、遊ぶ前と後ではVRChatやこの文章でさえも全く違ったものに見えるような、そんなものを目指しています。

「謎解き」というジャンルのコンテンツは基本的に「エゴの塊」です。 よくある謎解きゲームでは、いろんなところに散らばった数字・記号や単体では何ら意味のない物を組み合わせて「作者が答えてもらいたい何の意味もない答え」を作ります。 これってかなり自分勝手じゃないですか?もちろん謎を解く側の人は「謎を解く爽快感」を楽しむためにこういったことをするわけですが、なにも「4桁の暗証番号」とか「何種類もある鍵」とかを探し回ることに楽しさを見出さなくてもいいでしょう。 なので、このワールドではできるだけ謎を解くこと自体に楽しみを見出してもらえるような内容にしています。謎を解くために時には大胆な行動が必要になるかもしれませんが、これもフレンドと一緒にわいわい楽しんでもらえればと思います。

なにはともあれ、「VRエンターテイメントのキラーコンテンツは『人』」です。 VRChatを楽しんでいる人のほとんどは「人と接する」ことを楽しみにして毎日せっせとHMDをかぶっていると思います。 どんなに美麗なワールドを作っても、それは人と接するための場所、いわゆる「添え物」であって、コンテンツの本質ではありません(逆に、人と会えないVRChatを何千時間もプレイしたい人はいるのでしょうか?)。 このワールドも、そんな「人と接する」ためのひとつのきっかけになれば幸いです。

今月中には公開できればいいなと思います。


プラベごもりの怪:VRChatのプライベートインスタンスの分析

注:VRChatのシステムの性質上、この記事で扱っているデータは筆者から観測可能な情報に制限されるため、人によっては直感と異なる結果になっているかもしれません。 また、特定のVRChatのプレイスタイルを推奨・批判する意図はありません。 この記事では言葉を簡単にするため「ワールドインスタンス」を単に「ワールド」と表記します。

まえがき

VRChatユーザーを失意のどん底に叩き落とす「User in Online in a Private World」という言葉があります。 これは、フレンド関係にあるユーザーが「プライベートな場所(後述)」にいることを表す表示で、この表示になっている限りはそのユーザーが誰と一緒にどこにいるかを確認することが一切できません。この表示を見た際の絶望具合は以下のミーム(引用)に端的に表現されています。

[Meme] When all of your friends are in private worlds… from r/VRchat

この表示が出ているユーザーと外部SNSを介さずにコミュニケーションを取る方法は「Invite」(自分のいる場所に招待する)と「Request Invite」(自分をユーザーのいる場所に招待するように頼む)という単純なメッセージを送ることしかありません。しかもこの方法には以下のような難があるため、多くの場合コミュニケーションは壊滅します。

  • メッセージには自由文面を含めることができない(「入れてー」といったメッセージさえつけられないので、送信者の意図が全くわからない)
  • バグでメッセージが届いたり届かなかったりする
  • ワールド移動はバグが多い(人数が多いと入るのに失敗する・バグでワールド内のメンバーの一部や全員が表示されなくなる・ロードに異様な時間がかかる等)ため、Discordのボイスチャンネルのように素早く移動することは困難
  • ワールドの種類(後述)によっては受信者がRequest Inviteを了承できない

そういう事情もあって、「みんなプラベにこもってる(ので会いたい人に会えない)」という現象はVRChatユーザー共通の悩みとなっています。 もちろん、ログイン後のデフォルトのワールドはプライベートなので、「誰のところに行こうかな?」とフレンド一覧を見ている間はその人も「プラベにこもってる」ように見えてしまい、負の連鎖に陥ります。

この現象は多少なりともコミュニティにおける人間関係のトラブルの原因になっている気がするので、この記事では私が持っているデータを使って簡単に分析してみます

事前知識:プライベートな場所とは?

執筆時点でフレンドが「プライベート」表示に見える原因は以下の2通りです。

  • フレンドがInviteまたはInvite+権限(以降まとめてInvite)のワールドにいる:これらのワールドは基本的に特定の人を招待することでしか参加できないワールドです。これらはワールドの存在や参加者を秘匿したいという意図で作られることも多いため、真の意味でプライベートといえます。
  • フレンドがFriends only権限のワールドにいて、かつユーザーがそのワールドインスタンスの作成者とフレンドではない:この権限のワールドでは、作成者のフレンドは自由にJoinできますが非フレンドはJoinできません。当然非フレンドにとってはワールドの作成者が誰かは分からないのでVRChat内部から参加することはほぼ不可能です。

事前知識:なせプライベートに?

Inviteワールドが作成される理由は多岐にわたります。

  • イベント・打ち合わせや単に特定メンバーだけで過ごしたい場合、またはえっちなことがしたい場合1はおおよそこの権限が使用されます。
  • ログイン直後のワールドはデフォルトではInvite権限で作成されます。
  • Public権限ではないワールドに設置されているポータルを通るとInvite権限で作成されたワールドに移動します。これに関しては利便性向上のための意見が提案されています
  • あるワールドに入ろうとしたときに人数超過した際は自動的に同じワールドがInvite権限で複製されます。

以上の通り、自発的にInvite権限を使用しなくてもシステムの都合上気づかないうちにInviteな場所にいることは多々あります。

一方、Friends onlyワールドについてはこのような仕様はないため自発的に作成することになります。Friends+ではなくこの設定にする理由としては以下のようなことが考えられます。

  • ワールド作成者やそのフレンドの多くが知らない人が入ってくることを防ぎ、交流の快適性を確保するため
  • Friends+ではワールドに入室できる人数が二次関数的に増え、爆発的に混雑する場合があるため

「FriendsとFriends+はどちらがよいか」という問題は好みの問題でもあるので、この記事では特にどちらかに肩入れする意図はありません。

プラベ率の相場は?

ここで私のフレンド(1000人程度)がプライベート表示になっている割合の時間変化を見てみます。今回はAPI経由で取得した5~8月のデータを使用しました。

プラベ率の時間変化。”Moving average”はデータを平滑化したもの (Time series of the ratio of “User in Online in a Private World” of my friends in the last three months)

面白いことに、プラベ率はおおよそ3~4割程度であまり変化していません。これは「コミュニティ全体でプラベの使用率はほぼ変化していない」ともいえますが、「プラベを用いた密なコミュニケーションの増加率」と「私のフレンドが増えることによる観測可能なFriends onlyワールドが増加する割合」が平衡しているともいえます2。どちらにせよ、「物理的制約のない世界のどこかにいる40%の友だちとは常にコミュニケーションがとれない」というのはちょっと異常というか、悲しいものがありますね。

……しかし、実はこれは正しい考察ではありません。 上記の期間について、私のフレンド一人一人のプラベ率のヒストグラムをとると次のようになります。

フレンドごとのプラベ率のヒストグラム (Histogram of the Private ratio of my friends)

注目すべき点は50パーセンタイル(”50 %ile”)という値が20%程度であることです。これは小難しい言葉を使わずに噛み砕いて言うと「私のフレンドの半数は80%の確率で会うことができる」という意味です。一見すると前のグラフと矛盾しているようですが、「半数のフレンドが少ない確率(10%程度)で入れ代わり立ち代わりプラベに入り」「半数のフレンドが比較的高い確率(50%程度)でプラベにこもっている」と考えると辻褄が合います3。また、90パーセンタイルは50%近くなので、「私のフレンドの9割は半分くらいの確率で会うことができる」ことになります。

つまり、「プラベごもり」は実際は「見かけ上プラベにこもっている人が多いように見える」だけであり、同じ人を違う時間帯や違う日にちょくちょく確認するとJoin可能である可能性がそれなりにあるといえます。それでも「『みんな』に会えない」と感じる場合は、単にそれはあなたが「プラベにこもりがちな人たち」しか見ていないのであって、フレンド欄をよく見れば「パブリックな場」によくいる人もちゃんと見つけられるはずです。

ちなみに、プラべ率が100%に近い人たちも若干見受けられますが、私が見た限りはそのほとんどがVRChatを作品公開やコラボレーションの手段として使っている人たち(VTuberが多め)のようです。当然ですがそういった用途ではInviteが使われるためプラべ率は高めになります。

Friends vs. Friends+

では、実際のところFreinds onlyとFriends+のワールドはどちらが多く利用されているのでしょうか?これを正確に計測するためにはVRChatの全ユーザーとフレンドになる必要がある(そうでないとユーザーがPrivateとFriends onlyのどちらにいるのかを区別できない)のですが、これは不可能なので少し別の観点から見てみます。

それは「私のフレンドが今までに作成したインスタンスの個数」です。VRChatのシステムの性質上、一人のフレンドがワールドインスタンスを作成した直後はほぼ確実にそのワールドにいる(APIで記録できる)ことと、この時にユーザーがPrivateとして表示されることはないので、ワールドの存在比を測定する上で正確性の高い手法になります。

今回は作成者がトラスト値のうち上位3つ(trusted, veteran, legend)4のいずれかになっているワールドインスタンス55000件を集計しました。

作成者のトラスト値ごとのインスタンス数の割合。上位3トラストのみ表示 (Proportion of the number of worlds of two different instance types (Friends only vs. Friends+) created by my friends with three trust ranks)

おおよそどのトラスト値の場合でも6割程度のワールドがFriends+であることがわかります。この記事を公開する前にTwitterでFriends onlyインスタンスの滞在時間についてアンケートを取ったのですが、この結果でもFriends onlyの滞在時間はプレイ時間全体のおよそ3〜4割だった5ことから、この結果はそれなりに正しい結果になっていると思います。

ちなみに、Inviteについてアンケートを取った結果、滞在時間の平均は2割程度でした。個人的にはプレイ時間の半分以上をInviteで過ごす人が15%程度もいるのは驚きですが、これは単にVR睡眠をプラベで行っている人たちの可能性があります。実際、私のフレンドのなかで「4時台にPrivate表示になっていたことのある日数がログイン日数全体の3割以上」だった人について集計してみたところ全体の1〜2割前後だったため、ある程度の信憑性はあると思います6

プラベの”主”

次に私のフレンドの「自分の作ったFriends onlyワールドに滞在している割合」を見てみます。

フレンドごとの「総オンライン時間」対「自分のFriends onlyワールドの滞在時間の割合」 (Total online time (normalized) of each friend vs. the ratio of time when the friend is in Friends only instances he/she created)

これは1フレンドを1つの点で表したグラフで、X軸が総オンライン時間、Y軸がオンライン時間中の自分の作ったFriends onlyワールドに滞在している割合になっています。 これを見ると、8割以上の時間を自分の作ったワールドに「こもっている」人が何人かいることが分かります。 特徴的なのはこの人数が私のフレンド数(1000人)と比べて非常に小さい点で、こういった「プラベの主」にはそもそも会う機会が少なく外部からその様子を観察することが非常に困難であることが予想されます。

また、このうち上位3人について、「その人の作ったFriends onlyワールドに総ログイン時間の40%以上のあいだ滞在している人数」を数えたところ30人前後でした。これは私のフレンドのみから数えた人数なので、実際はもう少し人数が多いと予想されます。この現象は「その人の作るワールドにいることが快適であり自らそこに滞在している」と予想されます。

まとめ

以上のことを簡単にまとめると次のようになります。

  • 「みんなプラベにこもってる」は幻想で、実際は「まれにプラベにいる多数」と「よくプラベにいる少数」によって見かけ上そう見えている
  • ごく少数(1%以下)の割合で「プラベ(Friends only)の主」が存在し、少なくとも10人以上のフレンドを「引き込んでいる」
    • こういった場所に居場所を見つけている人に積極的に会いに行くことは難しい(主はほとんど外に出ない)ので、会いたい特定の人が常にプラベにこもっているなら直接聞いてみるといいかも